大徳寺 屋根と塀が織りなす美しさ

2026.01.31

大徳寺 屋根と塀が織りなす美しさ

朝9時、大徳寺の駐車場に車を停めました。
このあたりは仕事でもよく通る場所なのに、境内に足を踏み入れるのはいつぶりなのか、はっきりと思い出せません。

ひとつだけ、鮮明に覚えている場面があります。大学生の頃、帰省した折に大徳寺をぶらぶら歩き、すぐ近くにある紫野和久傳の外観を夢中で撮影していたときのことです。すると、和久傳の方が声を掛けてくださり、そのまま中へ招き入れてくださいました。

憧れの建築の内部に立った瞬間の喜び、小さな親切がそのまま大切な記憶として残りました。

大徳寺は、京都でも有数の規模を誇る禅宗寺院で、多くの塔頭が集まり、ひとつの町のような景観を形づくっています。
それぞれの塔頭には、方丈、庫裡、茶室といった大小さまざまな建築があり、庭は建築や塀によって丁寧に囲まれています。そこに禅の思想が重ね合わされているのだと思うと、積み重ねられてきた時間の深さを自然と感じさせられます。

現在公開されている塔頭は、龍源院、大仙院、瑞峯院の三ヶ所。
他の二十近い塔頭は非公開ですが、塀越しに見える隣の檜皮葺屋根の美しさや、塀と屋根が連なっていく景色に、思わず心が躍ります。入り組んだ道を歩くその感覚は、世界遺産の集落を歩くときのようで、時間の感覚がふっと遠のいていくようでした。

そして「京の冬の旅」の特別公開で、大徳寺大光院へ。
お目当ては、黒田官兵衛好みと伝えられる二畳台目の茶室「蒲庵(ほあん)」です。内部は庭園も含めて写真撮影禁止のため、細部まで目に焼き付けるように見てきました。続いて、同じく特別公開の大徳寺法堂・経蔵も拝観。小堀遠州の茶室「孤蓬庵忘筌」「密庵」、そして「真珠庵庭玉軒」、「玉林院蓑庵・霞床席」など、いつかは訪れてみたい茶室が、頭の中に次々と浮かびます。

朝の建築散策のつもりが、気がつけば11時半。
慌てて駐車場に戻ると、現金を持ち忘れて困っている方に声を掛けられました。駐車場代の500円をお貸しすることになったのですが、夕方には事務所まで返しに来てくださいました。名刺を交換し、ホームページも見てくださったようで、「素敵な仕事をされていますね」と声を掛けていただき、こちらまで少し得をした気分に。

将来、住宅のご依頼でもいただけたら、話のオチとしても申し分ないのですが。
そんなことを、つい期待してしまう一日でした。

吉田隆人